記憶から木録へ『国破れて‘山河’あり』(紙すき爺さん)

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銭湯、客数減でもなぜ潰れない?

清盛遺言『義経、福原を銭湯に』

 「一般市民向けに料金を徴収して温浴を提供するビジネス」としての銭湯は、日本においては鎌倉時代から存在しているといわれ、長い歴史がある。戦後も都市人口の増大によりその数は増え続け、昭和40年頃には全国で約2万2千軒存在していた。
 しかしその後、風呂付き住宅が一般的になったことや、スーパー銭湯などその他の営業形態が増えたことなどで利用客と軒数が減っており、昨年時点では全国で約5,200軒にまで減少している。東京都内だけでみても、この約50年間で約2,600軒から約800軒への減少である。


 数の減少もあり、銭湯は報道などでは、
「厳しい経営環境」「燃料費の高騰や消費税増税などで今後さらに厳しく」
「古きよき日本の伝統がまた1つピンチに」といった同情的な論調で語られることが多いが、実際はどのような状況なのか。

 確かに事業者も減っており、産業として衰退していることはその通りなのだが、実はその業界内部においては、利権と規制に守られた「経営努力をしない組織」が温存され、その維持に対して多額の税金が投入されているのである。



 ブラック企業アナリストとして、テレビ番組『さんまのホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染み、計100社以上の人事/採用戦略に携わり、数多くの企業の裏側を知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない「あの企業の裏側」を暴きます。

新田龍:株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト。
早稲田大学卒業後、「ブラック企業ランキング」ワースト企業2社で事業企画、人事戦略、採用コンサルティング、キャリア支援に従事。現在はブラック企業や労働問題に関するコメンテーター、講演、執筆を展開。首都圏各大学でもキャリア正課講座を担当。

・多額補助金、水道料金実質無料、税金免除…
 

 統計数字を見る限り、銭湯は全国的に減少しているが、相応の人口規模を持つ都市では依然として健在だ。東京都の場合、わずか450円の料金で、それほど盛況というわけでもない銭湯が生きながらえているのはなぜだろうか。

 その背景には「それでもやっていけるカラクリ」があることは、あまり知られていない。

 日本には「公衆浴場法」という法律がある。その中で「公衆浴場」は「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」に分類されており、前者が「銭湯」と呼ばれ、施設の衛生基準や浴槽水の水質基準、そして入浴料金などが法律で定められている。後者は俗にスーパー銭湯、健康ランド、サウナなどと呼ばれる施設で、「温湯や温泉で公衆を入浴させる施設」であることは同じだが、営業形態が銭湯とは異なる浴場であり、料金規制などは受けない。

・優遇措置

 だが、今回取材したある銭湯は、そのような統計上の数字はどこの世界の話かといわんばかりに羽振りがよかったのである。銭湯のみならず賃貸マンションも所有しており、会社として儲かっているが、なぜそのような事態になり得るのか。

 その答えは「料金減免」と「補助金」にある。

 実は、銭湯の水道料金は実質無料で、さらに施設と土地の固定資産税はその3分の2が免除されるのだ。「銭湯で水道料が無料」ということは、牛丼屋でいえば「タダでもらった米と牛肉で牛丼をつくって、相場より安い家賃の店で売る」状態と同じといえよう。湯を沸かすための燃料代の負担があるとはいえ、極めて好条件でビジネスができているわけだ。

 東京都水道局のホームページをみてみると、通常の料金表のほかに、公衆浴場用の水道料金、および下水道料金が載っている。いずれも、銭湯だけの特別枠だ。

 制度としては終戦間際の、公衆衛生が喫緊の課題であった頃のものであり、当時の時代背景であれば理解できるが、内風呂の普及率がほぼ100%となった現在、そこまで手厚く補助する正当性には疑問が残る。

 ちなみに、筆者在住の東京都世田谷区では、銭湯を対象にした予算として13年度で約1億9,800万円が支出されている。区内銭湯1軒当たり年間で約566万円にも上る計算になる。同区では待機児童問題などいろいろと優先度が高い課題があるにもかかわらず、銭湯に慣習的に多額の支出が継続されているのだ。

 しかも、あくまでこの対象は「一般公衆浴場」である銭湯に対してのみであり、「その他」に分類されるスーパー銭湯や健康ランドには適用されない。実際に今、新規開業を届け出たとしても、補助金・助成金対象となる「銭湯」としては認可されない(もちろん、その代わりに料金設定を自由にできるというメリットはある)。

 つまり、既得利権化しているのである。都道府県から助成金が出て、市区町村が振り分ける。450円(東京都の場合)という価格統制を受け入れさせる代わりに、助成金を渡すという慣行が残った。お金を渡す側は当然ながら利権を渡したくないし、事業者側も助成金はありがたい。お互い持ちつ持たれつなのだ。そして浴場組合の理事会には、地元議員も訪れる。こうして銭湯業界は、さまざまな思惑が交錯する場と化している。

 前出の銭湯経営者は、補助金について次のように語る。

「補助金がなくなった瞬間、数多くの銭湯が潰れるだろう。組合はどこも羽振りがよく、銭湯を会場にしたイベントなんかには、すぐにお金を出す。むしろ、補助金や助成金は使い切らないと翌年減らされるので、なんとしてでも使おうとする」

 公衆浴場でもスーパー銭湯などは各社知恵を絞り、助成金や補助金を受け取らずとも営業している。各自治体が明確な指針も検証もないままで補助金を垂れ流してしまうのは、当の銭湯の営業努力へのモチベーションを奪い、結果的に業界自体を衰退させてしまうことにもなりかねない。行政は、事業者が補助金に頼らずとも自立できる環境を整備すべきである。直接的な補助金でなくとも、利用者にバウチャー(利用券)配布するなど、方法はさまざまあるだろう。(Business Journal)


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by w-history | 2014-03-02 14:23